022 切削:5軸加工機の苦手なこと

1. 5軸加工機=3軸加工機の上位互換ではない

切削加工は機械部品を精度よく製作するのに必須の加工と言えますが、その中でも5軸加工は複雑な形状を加工できるなど非常に強力な手段と言えます。

ただし、5軸加工機は万能ではありますが、必ずしも3軸加工機の上位互換機というわけではありません。
何でもできる反面、苦手なことやデメリットも存在します。

今回は5軸加工機のマイナス面についてもお伝えします。

3軸加工機
3軸加工機の構造
5軸加工機
5軸加工機の構造

まず、上図が一般的なマシニングセンタ(3軸加工機)と5軸加工機の構造の違いです。
3軸加工機は主軸とテーブルが備えられていて、X軸、Y軸、Z軸の3軸方向に動くシンプルな機構です。

一方で5軸加工機はA軸、B軸の回転2軸が加わり複雑な機構となっているのがわかると思います。

これによって、5軸加工機は大きな優位性を持つわけですが、その反面デメリットも生じます。

2. 重切削に向いていない

一般的に切削加工は、体積を除去する粗加工と、表面を精度よく仕上げる仕上加工に分かれます。
参考記事: 3次元加工と表面粗さ

特に寸法の大きな素材を、大型のエンドミルでゴリゴリ削る粗加工を重切削と呼びます。
5軸加工機は、そもそも構造が複雑ですのでこのような重切削をそれほど得意としていません。

構造が複雑な分だけ機械全体としての剛性が低く、重切削に耐えられない事が多いためです。
このような場合は、3軸加工機で粗加工を行ってから、5軸加工機に乗せ換えて、5軸加工では仕上加工のみを行う事も良く行われます。

製造現場では、1台で全ての加工を兼ねるのではなく、得意な加工を組み合わせる方が合理的な場合もあります。

必ずしも5軸加工機が3軸加工機の上位互換ではない、という事は頭に入れておいた方が良いでしょう。

3. 加工精度が良いわけではない

5軸加工機は複雑な形状を得意としてはいますし、複雑であるほど段取替えを繰り返すよりは高精度に仕上がる加工ではあります。
ただし、構造自体が複雑な事もあり、元来発揮できる加工精度そのものが特別良いわけではありません。

加工速度が速いわけでもないですね。
むしろ、3軸加工機に比べて剛性が低い分だけ、加工速度はやや劣ると考えた方が無難です。

加工内容によっては、3軸加工機で加工した方が高精度でスピーディに仕上がる事もあります。

金型加工や、航空機部品など複雑な形状を加工するような部品でも、よほどの形状でなければ3軸加工機が優先して使用されます。

4. ワークサイズが小さくなりがち

5軸加工機は複雑な構造を持っているため、3軸加工機と比べると、機械の大きさの割には扱えるワークサイズが小さくなりがちです。

大きなワークを加工したい場合は、3軸加工機よりも1周り大きな機械が必要となります。

5. 機械が高価

5軸加工機は、複雑な構造を持っている分、機械そのものが高価となります。
一般的な3軸加工機よりも数割程度は導入費用がかかるのが通常ですね。

もちろん、5軸加工に対応したCAMも別で用意しなければいけない場合が多いため、機械以外の導入費用も加わります。

必然的に、加工時間に対する単価(時間単価)は、一般的な3軸加工機よりも高くなります。

工程短縮による工数低減と、時間単価の増大を比べてどちらがメリットがあるのかは、扱う加工内容によって変わりますね。
3軸加工機で十分効率よく加工できる部品をわざわざ5軸加工機で加工すると、結果的に割高な加工となってしまいます。
あるいは、ちょっとした設計上の工夫で3軸加工機で加工できるのに、それに気づかず5軸加工機でないと加工できないような設計になっていると、割高な部品になりがちです。

5軸加工機は、必然的に5軸加工でしか実現できない価値の高い部品に用いられる加工方法と言えるでしょう。

このように、5軸加工機は優れた加工機械である反面、複雑な構造を持つことでデメリットもあります。

設計者としては、数ある加工手段の1つとして考えると良いのではないでしょうか。
大切なのは、5軸加工という選択肢を持ちつつ、製造側で合理的な使い分けができるような設計を心掛けることだと思います。

5軸加工機のメリットを引き出せるような、製造現場も唸る素晴らしい設計をお待ちしています!

設計まめ知識

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